雷鳴に手を伸ばして

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どうしてこうなった。

 

と言っても、理由なんて分かっている。

 

それが結局、僕の胃の中をどこかムカムカさせる。

 

***

 

12時を過ぎた新宿が、酔いの冷めない若者たちをギラギラと照らす。ネオンから生み出される影の黒さが、人間の汚さをそのまま表すように。

 

そうして僕は、彼女と仲良く終電を逃す。

 

梅雨独特の湿気を帯びた空気が、繋いだ二人の手から全身を包む。不似合いなほど乾いた僕の手と馴染む彼女の手が、この先の歩き方を示す。

 

***

 

交わった後はなかなか鏡が見れない。

 

なんだか情けない姿ばかりを見せてしまった気がするからだ。

 

小さな体が、熱源へと変わる瞬間に一役買ったことが、とても恐ろしく感じる。

 

「ガラス細工だ」とまでは言わないにしろ、小さく細い体を抱きしめると、割れてしまうのではないかと言う思いが拭えない。同時に、囁き合う言葉が、この場においてのみ大きな重みを持つことに、僕個人としての人間性の限界を知ってしまい、虚しさが襲ってくる。

 

「シャワー浴びてくるね」

 

あぁ、この子は先刻の「恥を曝け出す行為」に対して、もう処理を済ませたのか。

 

散らかされたバスタオルを手に取り腰に巻いた。

 

部屋が一気に色味をなくし、慌てて適当にテレビをつける。この時間の番組なんて大抵想像がつく。適当にザッピングして、パチスロ番組で手を止める。なんだか派手だ。僕はパチンコもスロットもやらないが、他に観たい番組もないので流しておく。

 

テレビ画面に表示されている時刻だけが、現実のような気がする。この時間、この空間全てが夢のように感じられる。足元もなんだか覚束ない中、煙草に火をつける。

 

ため息混じりに煙を吐くことで次第に世界が色付きはじめる。脳の隅々まで煙が行き届くように深く吸い込む。吐き出すことで現実と調和しはじめる。今みたいな時の煙草は僕にとって「生命維持装置」となる。

 

頭をできるだけ空っぽにして、為すがままに歩いて、それで辿り着いたホテルの空間が、僕に用意された容器、もしくはゴミ箱だ。そこで洋服と恥を脱ぎ捨てる。全ては導かれるままに。

 

何も考えない頭を煙草によって動かす。そうしなければ、他人は簡単に僕を飲み込んでしまうだろう。他者にとって難しいことであればあるほど、当人は容易である。

 

浴室からは彼女の浴びるシャワーの音が聞こえてくる。彼女が流しているのは体だけなのだろうか。

 

彼女も、煙を吐き出す僕と同じように、恥を流しているのかもしれないと思った。ようやく少しだけ、心が繋がったような気がした。