つっかえない

 

渋谷駅にて。

 

膝下まである白い靴下を履いている女子高生を見た。その日は雨が降っていて、埼京線ホームにはねずみが這い出そうな鬱々とした湿っぽさがあった。生乾きの匂いを醸し出すワイシャツを着るサラリーマン、有象無象の一人である僕は、名前も知らない彼女の後ろ姿を見た。

 

綺麗なものを見ると言語化したくなるのは必然なのだろうか。

梅雨の匂いと百合のような彼女を見ると、僕の頭の中は、三十一文字の美学へと向かう。しかし、綺麗なものをそのまま言葉にすることは難しい。僕には知らない言葉が多すぎる。否、僕に知ってる言葉などない。

 

やがて彼女の姿を見失った。そうして僕は改札を抜け、カバンの中からお面を取り出した。マスクの上からお面をかぶると、息苦しくてしょうがない。

 

彼女の姿が完全に僕の中から消えて、僕の積み上げた言葉も砂のように沈んでいった。

 

しばらく歩いていると、いつの間にか僕のお面は剥がれなくなっていた。「困ったな」とは露ほども思わなかった。

 

**

 

僕はその女子高生の顔も知らない。全て見てしまった後に書こうとすると、制約だらけの言葉に苦しんでしまいそうだった。

 

けれども、白い制服から感じられる無垢の大きさが、もう僕が正面から受け止められるものではないことに気づき、なんとか言葉で収めようとした。無理だった。

 

制服を剥がすと、絶対にそんなことないのが素晴らしい。女子高生はブラックボックス??

 

**

 

こんなことを考えている数日後にガールフレンドができてしまった。今後もこんな文章を書いていくぞ。

 

次はちゃんと惚気ましょう。

 

f:id:k_ame:20200629225240j:image